日大非常勤講師差別発言問題と非常勤講師のあり方

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大学教員がとんでもないことをしでかしたニュースが話題ですね。

記事のタイトルから受ける印象よりも、実際の発言は大分酷かったようです。しかも、授業中の発言だというので驚きます。

特定の人種をさして「あの人種の連中はすぐに犯罪をする」というような発言や、「武漢ウィルス」というトランプが中国を誹謗するコロナウィルスの呼び名を使ったり、障碍者や女性への差別発言もあったりしたとのこと。

せめて、人種や人権、差別といった問題から遠く無関係な学問分野(無機物を扱う分野とか、数学とかでしょうか。例えば。)の講師であってくれ、と思いながら検索してみると、まさかの法学…。嘘でしょうと言いたい。

この問題の署名運動のサイトがあり、その他にもちょっと検索すると当該講師はフルネームがばっちり出てきてしまいます。これはネット上の推測ではなくどうも本当にこの人のようですね。法思想も専門に含んでいるようですが、いったいどんな法思想を学んでいたというのか。

「論理的に考える」ことを商売にしているはずの大学教員なのに、ある人種を一般化し、「この人種の連中はすぐ犯罪をする」などという、論理性の欠片もないことをどうやったら疑問にも思わず学生に開陳できるほど信じられるのでしょうか。例えば(あくまで仮定の例ですが)、「アフリカ系の人種の方が東アジア系よりも筋力が有意に高いというエビデンスがあり、その結果として東アジア系の人々は特定のスポーツでアフリカ系より弱い」というぐらいのことならあり得るかもしれませんが、この講師の発言はどう考えてもそういう類ではありません。

更には、この発言をオンライン授業で行っていた音声データがばっちり残っているそうです。オンライン授業でなくても、学生がレコーダーを持ち込んで録音することは可能でしょうが、それに比べてはるかにハードルが下がり、準備もせずにデータが残る「オンライン」で、疑問もなくそんな発言をしてしまうとは。何も考えていないのでしょうか??はっきり言って、バカなのか。同じ社会科学系の大学教員として恥ずかしい。

 

この報道を目にして改めて思ったのが、非常勤講師の採用が専任教員と比べるとものすごくザルであることが多々あるということです。

専任よりもよっぽど教育力が高く、学生にも(楽単などではなく良い意味で)大人気のすごい先生方もたくさんいらっしゃるものの、非常勤講師の質はかなり玉石混合です。一人の専任教員が見つけてきて、「この人にしようと思いますがいいですよね」と形式的に会議にかけられ、誰も何の意見も質問も出さずそのまますーっと通って採用されるという講師が、長いこと大学で教えるということがごく普通にあります。つまり、面接も模擬授業もなしに、競争的に他の候補と比較して優れていたという事実もなしにです。更に言えば、紹介してきた専任教員もその人を直には知らないことも当たり前にあります。

大学内部の人間以外がこれを聞いたら、結構驚くのではないでしょうか。

専任の採用がものすごくシビアで厳しい競争状態であることと比べると信じがたい差です。

しかし、採用はこのようにあっさりでも、逆はそうではありません。大学は非常勤講師を解雇したり、それどころか担当科目を変えたり担当コマ数を減らしたりすることすら、見聞きする範囲では、タブーに近いように避けようとすることは多いようです。もちろん労働者保護の観点からむやみと解雇や担当減をされては困りますが、「非常勤の先生のコマはおいそれと変えられないのでできるだけ専任で調整しましょう」となることも珍しくなく。(実際に知っているサンプル数は少ないのでそうでもないケースも多いかもしれません。悪しからず)

推測ですが、大学の教育は大変安価な給料(1コマ2~3.5万円ぐらい/月)、不安定な身分の非常勤講師なしには成り立たないのが明白な中、あまりに非常勤講師に無慈悲な対応をして大きな反乱が起こったりすると、大学は困るのでしょう。現状のまま非常勤講師に黙って働いていて欲しいのだと思われます。コマ数の増減で生活に大きな影響がある講師も多いわけですし。

今回の講師の件も、学生たちは講師の解雇を求めており、大学は解雇はせず対処するとのことで「こんな差別主義講師を雇い続けるなんて!」という反感は多いでしょうが、解雇するという決断は重く、やはりよほどでなければ即解雇はできないでしょう。下手したら裁判になりますし、ついでに相手は法学者ですし。

それにしても、こんな授業を受けさせられた学生たちが気の毒過ぎると同時に、抗議の声をちゃんと上げたのは立派です。

学生の皆さん、何かおかしいと思ったら声をあげましょう。