なぜ、生徒/学生を贔屓したり、アンフェアな扱いをする教員が発生するのか(2)

昨日の続きです。こちらの記事を先にご覧ください。

msr2do.hatenablog.com

 

教員が「フェアな姿勢」を貫くには、通常以上に大きな努力と(時間や手間という)コストがかかる、と昨日は述べました。

それには2つのポイントがあります。

ひとつは、学内(あるいはクラス内)ミニ・インフルエンサー学生の扱いの難しさ。

もう一つは、多発する、許容されがちな不正へのフェアな態度を貫くコストの大きさ。

例えば10名程度のゼミならいうまでもなく、20-30名の授業などでも、目立つ学生の影響力は教員側から見ても非常に大きなものです。これを仮にミニ・インフルエンサー学生と呼びます。

 

ものすごくざっくり言うと、ミニ・インフルエンサー学生の機嫌を損ねると、集団全体の運営に影響を及ぼすのです。しかし、教室の隅で地味に本を読んでいる学生の機嫌を損ねても、正直なところ、ほとんど影響しないといえます。なぜなら、目立つ学生が不機嫌な態度をとるだけで教室内の空気が悪くなったり緊張感が生じ、また教員や授業に対する彼らの不満、批判は拡散力と支持を得易いからです。

贔屓する教員は、所謂カースト上位や目立つ学生をお気に入りだから贔屓するといった理解が多いようですが、必ずしもそうではないと思います。むしろ、こうした状況から、目立つ学生自身のことはあまり好ましく思っていないが、ゼミ、授業、学級運営上厄介な事態を避けるためにミニ・インフルエンサー学生を味方につけて、ある意味“利用している”教員も少なくないでしょう。

もうひとつは、こちらもミニ・インフルエンサー学生と関係するのですが、不正へのアンフェアな態度に関してです。これは、小中高校であれば校則違反だとか、大学であれば試験や単位に関する不正、しかし、それほど重大ではなく、許容されてしまいがちな違反や不正です。

私は子供の頃、うっかり間違えてしまった程度の違反を叱られ、目立つ生徒たちが常に目に付くような明らかな違反に何の指摘もされていないといった状況にしばしば遭い、非常に理不尽に感じていました。

大学で言えば、まじめに授業に取り組んでいないのに要領よく単位を取っていくといった例が典型でしょうか。出席をとる授業での出席偽装だとか、レポートのコピペなどの課題に関するズルだとか。

厳格に細かなルールを適用し、成績を付けたり単位の可不可認定を行っていて、「これぐらい大丈夫だろう、実際に他の先生たちは割と見逃してくれるし」と甘く見る学生が多いところ、厳格に「ルール違反なので減点」あるいは「単位不可」とすると、しばしば学生は(自分の責任を棚上げして)怒ります。これがミニ・インフルエンサー学生の場合、周囲にその怒りと教員批判が大きく拡散するのです。

すると、授業評価アンケートの評価が下がったり、多くの学生が反抗的な態度をとるようになったり、人気がなくなったり(これも、どうでもいいようで様々なことに影響します)する場合があります。学生たちとの人間関係が悪い中で教育を行うのは、教員自身も非常にやりにくいし居心地も悪いものとなります。

つまり、ミニ・インフルエンサー学生に対しては甘くし、贔屓とみられるような対応、態度を示した方が、はっきり言って教員として楽なのです。

 

じゃあ、全員に甘くしたらどうなのか。

全員に甘くしている教員もします。しかし、そうするとモラルハザードが生じます。きちんと学んでいない学生、不真面目な学生にそこそこの評価を与える、それは、教育に真摯に取り組んでいればいる程、虚しさを感じることです。多くの教員は、できれば、そんな風にしたくは無い筈です。

そこで落とし所として楽で便利なのが、ミニ・インフルエンサー学生を少々優遇する、ということになるわけです。

・・・恐ろしい話です。

また、これは他の教員たちがどのような姿勢でいるかにもよります。大部分の教員が厳しくしているのであれば、厳しくすることのコストは小さくなりますが、大部分が甘くしている中で厳しくするコストは極めて大きくなります。教育困難大学ではそもそもきちんとやってくれる学生の割合が相対的に少ないので、厳しくすると単位不可が続出し、ひいては退学率の上昇につながりかねないので、大学(経営側)としてはマズイ事態です。結果、「甘くする」が連鎖していきがちになります。教育困難大学で厳しくフェアネスを貫くのはそもそもコスト大といえます。

 

では、どうしようもないのでしょうか?

私はやはり、アンフェアな教員にはなりたくない、そこは譲れません。しかし、手間やコストを人一倍かけているのに、学生の多数派から好かれない(場合もあり得る)という状況に甘んじるのか?それもできれば避けたいことです。

答えは模索中ではありますが、現状、「表面上はフレンドリーだがルールは厳格に」作戦でいってます。なるべくフレンドリーに、時に友達のように共感の姿勢を示し、あたかも甘くしてくれるかのように振舞いながら、「でも、これはおまけできないんだ」と、残念そうな、申し訳なさそうな顔をしながらさらりと締めるのです。

これが結構、今のところまあまあうまく機能していますが、テクニックが必要で、簡単ではありません。私もどちらかといえばコミュ力は低めの部類ですので、コミュ力の高い教員の振舞いを見るなどして研究し、実践しています(笑)

まとめると、ミニ・インフルエンサー学生のことを贔屓する教員がいる理由は、恐らく多くの場合、「その学生を気に入っているから」ではなく、「機嫌を損ねると仕事がしにくくなるから」と考えられます。書いていて悲しくなりますけどね。