東大公募内定取り消し裁判

最近、非常に驚くべき記事を目にしました。

東大の生命環境科学教授ポストの公募で、内定取り消しがあり、二年ほど続いていたそれに関する裁判で、和解が成立したという記事です。

 

この出来事、二年前に当事者宮川剛氏がTwitterで発言して大きな反響があり、議論を呼んでいて、大学教員公募に関心がある人はかなり多くが目にしたのではないでしょうか。

彼は人事委員長から「あなたに決まった」と言われ、着任後の授業やら研究室に関して具体的かつ細かいことを打ち合わせていたのに、突然内定を白紙に戻され、以降交渉もできずに連絡もとれなくなり、裁判するに至ったとの事。

そして二年も経ち、和解したものの、内定取り消しの撤回にはならずだったそうです。

詳細の記事はこちら。

gendai.ismedia.jp

二年前は、Twitterで発言したご本人でたる宮川剛氏が内定を取り消された当事者であることや、その大学がなんと東京大学であることは伏せられていました。

東大がそんなことをするのか…と驚いた人も少なくないのでは。てっきり、理事会が圧倒的な権力を持つタイプの私大かと思いました。

内定取り消しの理由は、「しばらくは前の大学との兼任になってしまうこと」だったものの、それを彼は最初から告げた上で選考を受けていたのだそうです。思うに、学部と大学上層部でその部分がしっかり認識が共有されておらず、上層部が後からダメだと言い出して学部は逆らえずということなのでしょう。

記事の中で彼は、大学は内定者にちゃんと書面で内定通知を出すようにしてくれ、と訴えています。これがあれば法的に、雇う側は正社員への解雇並に内定取消が簡単にはできなくなります。しかし、東大の主張は、着任時(つまり、年度初めであれば4月1日に総長から辞令を受け取る時)までは単なる「見込み」に過ぎず、いつでも白紙撤回できるので、宮川先生への白紙撤回は問題ない、というもの。

ご本人も言っている通り、じゃあ、そんなに不安定な状態で前職を退職し、引っ越しをしておかねばならないことになります。不合理にも程があります。天下の東大がそんなことを臆面もなく主張するとは・・・。

ご本人である宮川先生は現在、元の職場である大学で教授職を続けているようでそれは何よりですが、なぜかこういう意味不明な不合理が大学教員の人事ではまかり通っているようですね。なぜなのでしょう。書面で内定通知を出すと何か不都合があるのでしょうか?特に何もない気がしてなりませんが。割愛の慣習の影響でしょうか?

ちゃんと書面で内定通知を出すプロセスがあれば、「選考委員や教授会では通りましたのでほぼ決定ですが、内定通知を出せるプロセスまでもう少しあります」と言えるわけですし。書面を出す慣習がなく、曖昧なまま、しかし他のケースではほぼ100%に近く教授会決定がそのまま通っていたから、もう決まったも同然だと学部の選考委員も考えてしまい、起きた不幸と思われます。

私は現職の内定を頂いた際、まず電話をもらったので、その電話で「今後まだプロセスはありますか?」と確認し、既に理事会で承認されて最終決定済だとの答えをもらいました(その後ほどなくして、幸いにも書面での内定通知ももらいました)。自衛として、そのぐらいは確認しておくといいでしょう。「教授会で承認されましたのでほぼ決定です」と言われても、「なるほど、では、一応まだ理事会だとか全学的な人事委員会だとか、あるのでしょうか?」と念押しし、その最終段階で承認されたという返事をもらうまで、気を緩めるべきではないのだと思います。

2年前のTwitterで騒がれていた際には、当時の河野文科相も登場するなど大きな話題となりましたが、それでも結果は2年も経っての和解。内定は取り消されたまま。

納得がいないことにとことん戦った宮川先生は立派だと思いますし、こうした変な慣習が改まって欲しいと祈るばかりです。しかし同時に、労働裁判なんてしてしまうと組織では「面倒くさい奴」「歯向かってくる奴」と認定され、疎まれ避けられる可能性も少なくないだろうと思います。パーマネントのポストがしっかり確保できている人でないと、たいていは泣き寝入りでしょう。

私と同じく職探し中の若手研究者の皆さん、とにかくしっかり自衛しましょう。

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