レビュー(映画)「KU-KAI 美しき王妃の謎」(少しだけネタバレあり注意)

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劇場公開時から見たいと思っていた作品がレンタルされていたので見てみました。

8-9世紀の僧侶で、唐に渡って密教を学んだ空海のお話…かと思いきや、邦題にやや偽りアリといった感じで、原題の「妖猫伝」だと思って見た方がいいですね。

あらすじは、皇帝周辺で不審な死や事件が続き、どうもそれに皇帝が飼っていた猫がかかわっているようで、空海と白楽天がその謎を追う、といったものです。

阿倍仲麻呂も出てきますが、こちらは、ほぼいなくてもよかったような気すらします。彼が書き残したものは物語上重要となっていますが。

空海に思い入れがあるから見ようかと検討している人は、この作品ではなく1984東映の「空海」を見ることをおすすめします。

さてこの作品、まず映像がとにかく美しく、魅了されます。中国歴史ファンタジーともいうべきジャンルが好きな人にはお勧めです。戦などを描いた硬派な歴史映画ではなく、仙界や幻術などが重要要素となっていて、アジア独特の幻想的な映像がカギとなる作品、よくありますよね。私はどちらかというと戦などの歴史ものの方が好きですが、中国史が好きなのでファンタジー系もしばしば見ます。この作品も幻術が物語の大きなカギとなっているので、古代中国の世界観や精神世界のイメージを投影したような美しいシーンの数々は見もの。

そして、ストーリーも巧く作られていて、正直、途中でやや飽きてしまいそうになりましたが、最後で「ほほう」と膝を打つ納得感があり、最後の数秒まで「なるほど!」という良さがあります。

悪を悪で切り捨てない、単純な善悪二項対立ではないアジア的価値観も感じられて、そういうところも好きですね。

作中で物語をリードするキーワードである白楽天作の詩、長恨歌の内容に最後までほぼ触れられていなかったのはやや残念。このフィクションのストーリーが、長恨歌のこの部分に繋がっているのだ、という独自解釈でもあれば、更に良かったなと思うのですが。

というわけで、歴史ものとは言えないかなという印象ではあるものの、ファンタジー作品として見ると割と良かった本作品、一つ非常に残念だなと思ったのは、キャスティングです。

 

 

一言でいうと、「何たるホワイトウォッシュ…」。

 

楊貴妃役の女優さんが、台湾とフランスのハーフだそうで、見た目明らかに白人のお顔立ちなのです。この女優さんになんの非もありません。演技も良かったですし、大変美しい方です。

監督の意図は、「当時の長安は外国人も数多くいる国際都市で、そうした長安の側面を表した」みたいなことらしいです。いやいや、そこで楊貴妃を白人の容姿の人にする必要がありますか?この作品では特に楊貴妃の美しさによって多くの人間が人生も命も捧げるといった側面があり、あたかも、白人の容姿にノックダウンのアジア人、というような構図になってしまっています。

ホワイトウォッシュという言葉を始めて目にした方、詳しくは調べてみてください。簡単に言うと、映画などで非白人の役柄を白人が演じることで、昔は当たり前に行われていました。先住民役やアジア人役も全部俳優は白人だったりして、現在では非常に問題視されています。映画だけにとどまらず、様々なジャンルのフィクションなどで不必要に非白人のポジションを白人に置き換えることで、「普通の人間=白人(?)」というようなニュアンスを感じる、白人優越主義的な風潮があった(ある)のです。

なぜ、アジア人によってアジアで作られたアジアの歴史物語で、監督自らホワイトウォッシュをしてしまうのですか?映画人として、こうした問題を知らないはずはないと思うのですが。

中国人など東アジア系の容姿の、美しい女優さんでこの作品を見たかったなと思います。

 

 

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