橘学苑の教員大量退職問題

少し前に報道されていた橘学苑の教員大量離職問題ですが、続報で学苑が行った保護者会での様子が報道され、保護者やコメンテーターも、当然ではありますがその背後にある事情をあまり認識されていないのだなと感じたので、ちょっと書いてみようと思います。

 

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この問題、この学校法人の中学校、高校の教員が大量に退職していて、それに対して、「雇い止めであり、非正規教員の使い捨てである」との批判が起こり、神奈川県が調査に入るまでに至ったという顛末です。

これに関して「何も問題ないんですよ」という趣旨の保護者説明会を実施したものの、納得しない保護者が多く、議論は紛糾し予定時間大幅延長、怒号が飛び交う事態だった、との報道でした。

 合法で問題ないと主張する校長と、結局どこに問題があるかイマイチ了解していない風だった保護者やコメンテーターの方々。

この大量退職がなぜ生じているのかを推測すると、任期付き(非正規)教員の更新をしない、つまり雇い止めをしていることと、それによって任期付き教員たちが、この学校あるいは大学ではどうせ雇い止めにされるのだから安定した職を探そうと、一年や二年でも、どんどん他へ移ってしまうこと、この2つが主な理由と考えられます。

橘学苑の経営者が実際何を考え、何をしているかはわかりませんが、全国で多数起きている類似の状況の背景を一般例として説明すると、以下のようになります。

悪評高い無期転換に関するルールでは、5年間勤続すれば、任期付き(契約期間あり)の労働者も、希望を出すことで無期限の契約に転換できるようになりました。

しかし、この法改正によって多くの学校法人の経営者は、「正規雇用を増やすと、簡単には解雇できないし、コスト増と経営リスクに繋がる。5年(大学教員の場合は10年)ごとに非正規労働者を新たに雇用した方が得だ」と考えるわけです。

人手不足の業界ならこんなことをすれば立ち行かなくなるでしょうが、教員は希望者の多い職です。中学、高校の事情は詳しくありませんが、大学の場合は圧倒的な買い手市場ですから、こんなこともやり放題です。

 5年に満たないように契約し、その契約満了で退職させるのであれば、合法ではあります。しかし、「一定期間勤務した労働者に雇用の安定を保障するため」という無期転換の法の主旨には反していますし、「非正規の使い捨て」という指摘はその通りでしょう。教員の人生も、非正規を渡り歩くしかない状況であれば、いつまでも安定せず大変厳しいものになります。(もちろん、5年間雇用し続け、労働者が希望しているのに雇止めにしたのであれば違法です)

 

「そんなことをすれば、短期間で教員が入れ替わり、現場は経験が蓄積されず、生徒/学生との信頼関係構築にも支障があり、中長期的な教育や学校/大学の現場の運営ができず、教育現場にとっても不都合が極めて大きくならないのか」と不思議に思われることでしょう。

その通り、不都合は甚大です。

しかし、どうやらこういうタイプの経営者にとってそんなことはどうでもいいようです。

教員など、頭数が揃ってさえいればどうにでもなる、と考えているのです。

労働者(教員)の人生も、生徒/学生が良い教育を受け、良い環境で過ごせるかも、どうでもいいのです。あるいはどうでもいいというよりも、授業なんて大した仕事ではなく、割と誰にでもできるので、有資格者の数さえ揃っていれば何に問題もないと信じているようです。

教員の人件費はコストであり、なるべくそれを削減することが良いことで、リスクとなる正規雇用は低く抑えるのは、経営者として当然の選択である、と。

こういう発想しかできない人は、個人の金融トレーダーか何かにでもなっていただいて、くれぐれも公益のために存在するという性格を持つ学校法人経営者などにはならないでいただきたいし、どういう業種であれ人を雇うことはやめていただきたい。

 

TV報道で、保護者が「良い先生ほどすぐに辞めていく」と言っていました。良い先生ほど他にもすぐポストが見つかるので、いなくなると思われます。校長は自己都合で辞めていく教員のケースは自分たちに何も関係ない。全く問題ないという風に答えていましたが、自己都合で辞めていく教員は、教員(労働者)をポケットティッシュか何かのように使い捨てる職場から逃げようと必死なだけです。

問題ない良心的な職場であれば、自己都合退職者ははるかに少なかったのではないでしょうか。