漂流家族竹下家

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住宅ローン破綻

前回の記事にちょっと関連する話題です。

前回は、非正規で、特に時給で働く弱い立場の人々が、そう都合よくちょうど良い働き方をさせてもらえるとは限らない、という内容でした。

少し前に、youtubeで「急上昇」だったか「おすすめ」で、非常に興味深い動画が上がっていました。知る人ぞ知る古いTV番組だったようで、「漂流家族竹下家」です。

埼玉に住んでいた両親と幼い6人もの子供たちというとある家族が、北海道北部の田舎町が募集した移住者募集に応じて移り住み、彼らのその後を追った、というドキュメンタリーです。結構長いのですが思わず見入ってしまいました。

この移住者募集は、3年以内に現地で家を建てることを条件に当面の住居費はタダ、土地も無料で提供されるものだったそうで、彼らは3年目に2千万円のローンを組んで家を建てます。

しかし、仕事のあてや手に職があるわけでもなく、何となく「自然の中で暮らしたい」「都会から逃げてきた(父親本人談)」といった動機で彼らは移住したようです。仕事がないから人口が減っているのだろうに、町が斡旋してくれた産廃処理の仕事に対し、「都会と同じようにあくせく働かないと食べていけない」ともコメントしており、どんな想像をして移住してきたのだろうと疑問になります。その仕事も冬場はできないので、早速仕事に困り…。物価は輸送コストのために都市部より高く、車のローンまで抱え、暖房費や子供6人にかかる費用もあり、移住直後から家計は苦しい状態。

更には、折角夫婦で就職できていた仕事を父親は自ら辞めてしまいます。現場の意見を上が聞いてくて現場が大変だという、どこの世界でも、私の職場でもある理由で彼は仕事を辞め、家を売却せずに所有したまま仕事を求めて、移住から十年経たず埼玉に帰ることになりました。

気の毒なことに、高校生の年齢の子供は、高校に行かずにアルバイト生活。しばらくして、休学していた北海道の高校は退学することになりました。

埼玉で建設業の仕事を得た父親ですが、北海道では現場責任者としてのポストを任されていたので、今度は下っ端で働くことになり「プライドは曲げられない」と言ってまたも仕事を辞めてしまいます。(彼のいうプライドとは、誇りではなく、単なる現実に見合わない自尊心の高さですね)

北海道の住宅ローンは払い続ける予定だったようですが、結局払っておらず、お世話になった連帯保証人へも無視状態。

番組の中で夫婦が何度も口にしていた言葉が、「何とかなると思えば何とかなる」「深くは考えない(主義)」というような言葉。

そんな状況の中、なんと母親が失踪。いつの間にか仕事も辞めていたという―。

この辺りで番組は終わります。

高校に行けなかった子供たちがあまりに気の毒で後味が悪いのですが、この番組は非常に示唆深いと思います。

なぜ、子供が6人もいて、特に手に職もなく、年齢も四十路というハイリスクな条件で、仕事のなさそうな田舎に何の見通しもなく移住したのか、なぜ、2000万円の住宅ローンを抱えてしまったのか…

恐らくくだんのR氏ならば、というか世間の多くの人々は、「よく考えて計画的に行動すればこうはならない。十分避けられた事態で愚かな行動にあきれる。自己責任だ」ということでしょう。実際、動画のコメント欄には呆れた人々のコメントが多数ありました。住宅ローンと収入にしても、簡単なシミュレーションをするのに、高度な数学やFP有資格者並みの専門知識など全く必要ありません。簡単な四則計算でざっくり計算できるし、それで十分備えられます。

しかし、先々のことや自分の置かれた状況に関して適切な情報を十分に収集し、簡単な計算によってリスクを回避する選択をし、更に、「先々困るから」と考えて自制した行動をとる、こうしたことは、「考える」ことが得意なR氏のような人々にとっては息をするように簡単なことかもしれませんが、実際にはそれほど簡単なことではなく、なかなかそうはできない人がたくさんいるのだと思います。

常に周囲から自分の状況を実感させられる環境にあり、「身の丈に合ったことをする」という圧力のようなものがあった前近代の共同体社会と異なり、現代は、何とか人々に消費をさせようとする企業とその商品で世の中はあふれています。考えるのが不得手な人々が、リスクの高い行動をとりやすい環境にあるように思えます。

もっと直接的には「フールペナルティ」型ビジネスなどという言葉が最近当たり前に使われています。「愚か者への罰金」といった意味で、無知だったり適切な対処ができなかったり、不注意だったりする人々からお金を取るビジネスのことです。例えば、簡単に利用登録できるが、登録解除が非常にややこしいネット上のサービス。情報収集能力、どう対処するべきかといった知識、そして毅然と行動する意思、それらがないと解約できないというえげつない商売です。それらが十分にないために途方に暮れ、諦めて利用料を払い続ける人々からの収益を狙うわけです。まっとうに、よりよいサービスを提供し、納得した人からだけ利用料をもらって収益とするのではなく、そうした方が儲かるので、それを当て込んでいるビジネスです。

こういう類は本当にうんざりしますが、動画の夫婦が、「深く考えない主義」というようなことを繰り返し口にしていたのが思い出されます。「深く考えることは簡単だが、敢えてそうしない」のではなく、深く考えることがとても苦手だったように見えました。

「ちゃんと考え」「計画し」「自制的に行動する」こんなことが全て当たり前にできる人ばかりではない。だから仕方ないと彼らを擁護するという意図ではなく、それを前提に、社会というものを見ていくしかない、それが現実なのだろうと思うのです。

 

 

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