奨学金返還と自己破産
奨学金の負担が重く、返せない。それによる自己破産も増加。
こんな記事が今日だけで朝日新聞に3つも出ていました。(下のリンク参照。下2つは有料会員限定記事ですが、スマホのアプリからならば一日1記事無料で読めます)
これ、私も勤務先で日々感じています。
記事は卒業後に返還できないケースの話ですが、入学したものの学費が払えない、奨学金負担が重すぎるのでやっぱり辞めたい、という理由で退学していく学生が、うちの大学でも少なくありません。
それを必死で食い止めるというのも、実は中小無名大学の教職員に課せられた仕事でもあったりします。大学に入学者させることのできる定員は厳格に決められており、入学させた学生に途中で退学されては、学費収入の大きな損失となるからです。減ったからそれに応じて一人足す、ということは当然できないので。
しかし、こうした記事に書かれた実情を鑑みれば、引き留めるのも無理があるケースは多いのです。
シングル家庭で生活も精一杯だという状況で、奨学金とアルバイト頼みで大学に入学してしまう学生が当たり前のようにたくさんいます。それでも優秀ならば良い就職をして取り返すことができ、いいのですが、勉強も苦手で、うちのような全入ギリギリの大学でさえ緩い科目で何とか単位をそろえるような学生も少なくありません。
私も大学院時代はフルで奨学金を借りましたが、そもそも利子のない第一種で、博士課程の分は「特に優れた業績による返還免除(大学院のみ)」をいただくことができました(これは、実際に私がそれほど優れていたというよりも、まじめに研究に取り組み着実にアウトプットを出し、ボランティアなどにも積極的に参加したためと思われます)。
しかし、この無利子の奨学金さえハードルはそう低くないということを、さっき確認して初めて知りました。高校の評定平均3.5以上。在学時の成績上位1/3。(加えて、家計が裕福でないこと)
高校のレベルによって3.5の難易度は当然変わりますが、それでも、うちの大学の学生たちには容易ではありません。
とすると、数百万円の負債に、利子がついていく…。
この負担の大きさは、先輩たちからそれほど良い就職先が望めない可能性の高さを見せつけられている学生たちにとって、途方もないものに違いありません。
この状況を受けて、大学教育無償化だとか、給付型奨学金の拡大だとかいう議論もありますが、無償化なんてあまりに非現実的です。
国の予算は打ち出の小槌ではありません。
教員の給与を大幅にカットすれば、優秀な人材は研究者になろうと思わなくなり、日本の研究水準は失墜するでしょう。ただでさえ、特に国公立では十分カットされてしまっています。世界に誇るレベルの稀有な優秀な人材さえ、年俸が1千万に満たなかったりすることも。
私は、大学に進学するということが、あまりにも一般化し過ぎていると思います。
高校や専門学校卒で十分な場合でも、「とりあえず大学にぐらい行かなくては」という認識が広まりすぎたのではないでしょうか。
既存の大学は生き残りに必死ですから、とりあえずでも大学に行くべきと煽ってくるでしょう。
しかし、せめて企業の採用は、必要もないのに大卒以上と制限をかけ、過度な大学進学を煽らないで欲しいと思います。
「進学する自由」などともっともらしいことが語られますが、その学生たちは本当に高等教育機関で学問をしたいのでしょうか?
そうではなく、かなり多くの場合、大学にぐらい行かなければ将来が不安だ、と思っているだけではないでしょうか。
大学に行かなくても、分野によってはきちんとした職について明るい将来がある、という素地作りが唯一の現実的解決策ではないかと私は考えます。
私自身の職がそれによって脅かされるかもしれないということは、まあ、あるんですけどね。だからといって自分の既得権益を守れればそれでいいとは思えません。